2016年8月2日火曜日

【ダニエル・デファイエ】アルルの女

ウミネコプラズマンのサックスナビ、記念すべき第10弾は、
お待たせしました、クラシック音楽の世界で活躍しているサックスのご紹介です。

今回はビゼー作曲の『アルルの女』です。

この曲は元々ドーデの戯曲への付随音楽を組曲として編曲したもので、
『アルルの女 第一組曲』はビゼー本人が、『アルルの女 第二組曲』はギローがビゼーの死後、編曲したものなのだそうです。

クラシックは複雑ですね。
ジャズ屋には聞きなれない言葉がいくつか出てきました。
簡単にまとめると、

ドーデさん(作家)の脚本的小説(戯曲)を舞台で演るときの音楽(付随音楽)を集めてきて、良いところを音楽だけでも楽しめるよう組曲に再編集したものです。
舞台では諸事情により小編成オケでしか演奏できなかったので、せっかくだから、と作曲者であるビゼーが大編成オケ用に編曲したのが『アルルの女 第一組曲』で、ビゼーの死後、お友達だったギローさんがトリビュート(実際には編曲を手掛けた理由までは明らかになっていないようです)ということで、ビゼーが作曲した他の曲も取り入れて、実に見事にオーケストレーションしたのが、『アルルの女 第二組曲』です。


戯曲『アルルの女』のあらすじを簡単に。

舞台は南フランスのプロヴァンス地方、アルルはゴッホの夜のカフェテリアの書かれた土地としても有名なのだそうです。主人公はアルル近くの農村カマルグに住む青年フレデリ。フレデリはある日アルルの闘牛場でひとりの女性と出会い、恋をしてしまいます。
このアルルの女、と結婚できなければ死ぬ、とまで言い出し、幼馴染のヴィヴェットとの結婚を破棄してアルルの女を求めますが、女には情夫がおり、願いは叶いませんでした。アルルの女にフラれたフレデリは、幼馴染のヴィヴィットの想いに気付き、ヴィヴィットとの結婚を決意します。
とここでフレデリのもとに平和な日々が訪れるのです。。。。。
とハッピーエンドで終わってくれればよいのですが、ドーデの「アルルの女」には続きがあります。
ある年のお祭りの日に、アルルの女がその情夫と駆け落ちすると耳にしたフレデリは、嫉妬に狂って暴れ、ついには窓から身を投げてしまいました。
なんという悲劇でしょう、ヴィヴィットちゃんがかわいそうでなりません。男という生きものはどうしてここまで鈍感でおバカ」さんなのでしょう。
ここまで来てお気づきになられた方もおられるかもしれませんが、「アルルの女」は元の作品では登場せず、名前もつけられていません。フレデリの恋の対象として描かれているだけです。
それがまたフレデリの人間性を浮き立たせているのかも知れません。

前置きが長くなりましたが、
サックスが出てくるのは、第一組曲では第1部の中盤と、第2部、第二組曲の第2部です。
この曲が入ったアルバムとしては、1970年録音のヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリンフィル演奏のドイツグロモフォンレーベルから発売されているものが最もポピュラーではないでしょうか(そうでもないかも)。アルトサキソフォンはダニエル・デファイエがフィーチャーされています。ちなみにクラシックではフィーチャーとは言いませんね、ジャズやポピュラー音楽ではよく使います。フィーチャリング○○とかのフィーチャーです。

第一組曲 第1部 前奏曲(アレグロ・デチーソ)

ここでは行進曲風にプロヴァンス地方の民謡「三人の王の行進」が華々しく奏でられます。第二組曲ではフィナーレを飾る曲として出てきます。昔、某パロディシューティングゲームのBGMに使われていました。この曲を聴いてニヤっとしたそこのあなた、30代ですね。
オーケストラがフォルテで鳴っている中ではサックスの音は聞こえません、あしからず。
賑やかなファランドールが終わると、調、拍子も変わり、静かなアンダンティーノへと移ります。
ここでアルトサックスが登場します、この浮遊感漂うメロディは物語の主人公フレデリがアルルの女への想いを募らせ、夢うつつの状態をあらわしているのだそうです。


第一組曲 第2部 メヌエット(アレグロ・ジョコーソ)

速く、おどけて。と指定されています。
メヌエットとは、比較的ゆったりとしたリズムで優雅に踊られる宮廷舞踊なのだそうです。ワルツとは違うのか、、、。ともかく、三拍子のリズムに乗ってクラリネットやフルート、オーボエなどの木管楽器とアルトサックスが美しくハモり、絡みます。楽器による音色の違いをぜひ聴いてみて下さい。

第二組曲 第2部 間奏曲(アンダンテ・モデラート・マ・コン・モート)

中庸の歩く程度の速さで、しかし動きをもって、と指定がされています。難しいことはさておき、ギローが編曲した第二組曲でビゼーの原曲をそのまま使用しているのはこの曲のみです。
弦による重厚なイントロに続いて、甘美で瞑想的な美しいメロディがアルトサックスにより奏でられます。この部分は後にラテン語の歌詞がつけられ、「神の子羊」という賛美歌になったそうです。
一度この曲を生できいてみたい、と思うのは私だけではないと思います。

第3部 メヌエット (アンダンティーノ・クワジ・アレグレット)

ほとんどアレグレットのようにアンダンティーノで。どちらもやや速く、という速度指定なので解釈が難しいですね、アンダンティーノより少し速め、がちょうどよいですかね。
最もよく知られたメロディではないでしょうか。でも実はこの曲、付随音楽「アルルの女」の中の曲ではなく、ビゼーの「美しいバースの娘」からの引用なのだそうです。親友ギローが稀代のメロディーメーカー、ビゼーの知られざる曲を発掘して日の目を見せたというところでしょうか。
ジャズの世界では、どこへ行ってもフルートはサックスに喰われる存在ですが、クラシックの世界では非常に相性の良いコンビです。どちらも金属製なのに木管楽器に分類されている楽器だからでしょうか、良く響くフルートと、落ち着いたデファイエのアルトサックスの音色を是非聴いて下さい。
デファイエのアルトサックスはストリングスのオブリガードもソツなくこなします。この素晴らしい演奏をサキソフォンの生みの親、アドルフ・サックスさんに聴かせたいものです。本当は金管と木管楽器の橋渡し役としてサキソフォンを作ったけど、このためにサックスを作ったんだ、と納得されるに違いありません。

このアルバムでのデファイエの音は非常にスマートです。誤解を怖れずに言うと、現代のクラシックサックスプレイヤーの様にリッチではありません。使っている楽器も違うのでしょうが、余計な雑味を感じさせない、サックスの手本の様な甘美な音です。
ジャズ界のプレジデント、レスター・ヤングも、雑味のない甘美な音を追い求めた、なんて話を聞いたことがあります。そうやって聴くと、レスター・ヤングのテナーサックスの音はデファイエに通ずるものがある様に聴こえてきます。一層レスター・ヤングの演奏が好きになり、偉大さを理解できた様な気がします。

聴く音楽の幅を広げるって大事ですね。

今回紹介した「アルルの女」はクラシックサックスを志すものすべて通る道だと思います。「アルルの女」の間奏曲と、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の古城、は鉄板ですね、こちらもいつか必ず記事にしたいと思います。今回は記事が長くなってしまうので、サックスが特に活躍する

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